ファーストソング

俺は病院の外、千冬ちゃんの病室が見える場所で電話をかけた。
何回かコールが鳴った後《もしもし? 夏輝?》と声が聞こえた。


「千冬ちゃん、その…、大丈夫?」
《うん。 今は落ち着ているよ》
「よかったぁ…!!!」
《ふふ、ごめんね》
「なぁ窓から外みえる?」
《見えるけど…あ!》


俺が手を振ると千冬ちゃんも窓を開け手を振ってくれた。


「ねえ、千冬ちゃん俺ね歌めっちゃ練習してね」
《うん》
「だからその成果を聴いて欲しいんだ」


俺はそういうと歌を歌った。
謝らなくてもいい。
ただ俺は千冬ちゃんが生きてるだけで嬉しいよ。
その気持ちを込めて─。
千冬ちゃんはちゃんと聞いてくれている。
俺は歌い終わると一度深呼吸をしてスマホに耳を寄せた。


《すごいよっ!! 夏輝!!》


興奮気味の千冬ちゃんの声に俺は嬉しくなる。


「元気になった??」
《なったなった! やっぱり歌っていいよね!》
「はは! そうだな!」
《あぁ~。 できたら夏輝の歌をちゃんとしたステージで見たかったなぁ》
「ちゃんとしたステージ? あ、ならさ千冬ちゃん文化祭見にこない?」
《え。 あ。 でも、許可できるかな?》
「発作でないように車いすとかできたらどうかな? 無理かな?」
《うーん一回聞いてみるけど…できなかったらごめんね》
「そしたらここのステージ作って歌うから大丈夫! まかせな!」
《ふふ。 それじゃあ楽しみにしてる! あ、そろそろ先生が来る時間だ。 またね夏輝》
「おう! またな!」


そういって電話を切った。
千冬ちゃんは手を振ると窓をしめた。
俺は千冬ちゃんが見えなくなるまで大きく手を振り続けた。