ってか今がチャンスなのか?
店にいるのは俺と両親だけ、和真は遅くなってこない。
流石に店と家じゃ一階と二階で遠いし、家の中が繋がっているわけでもないから声も聞こえない。
今なら言える。
でも今更真剣に話し合いするのは恥ずかしい。
俺はご飯を食べながらなんてことないように口を開いた。


「…俺さ」
「ん、なに?」
「進路なんだけど、歌手目指そうと思ってる」
「そうかい、歌手に! …ん?」
「そのまんま歌手になれたらいーけどなれなかったらフリーターしながらやろうかなって」
「っば、アンタそんな一人握りしかできない職業だよ? 分かってるのかい!?」
「分かってるよ。 だから頑張るんだろう」
「頑張るって言ったって母さんたちの知らない世界で、お給料もどうやってもらうの? 無理よ! ねぇ、お父さんもそう思うのでしょ?」
「…どうしても叶えたいのか?」
「ちょっとお父さん!?」
「うん。 叶えたい。 勿論難しいってことは理解してる。 それでも諦めたくないんだ」
「そうか」
「そうかって、え?まさか」
「確かにウチの家計は大変だ。 だが、育児手当もあるし食堂も有難いことに繁盛してる。 今すぐにでもどうにかなるもんじゃない」
「そ、うだけど…」
「それに全く働く気がないわけじゃねぇんだろ?」
「勿論」
「じゃあそれでいい。 母さんは不安か?」
「そりゃ不安よ! だって全く知らない世界に行くし、歌手で成功している人なんて一握りでこの子にそんなことができるなんて…」


母さんの言葉は俺の心に刺さる。
それと同時に父さんは応援してくれている事実に驚きながらも嬉しさを感じていた。

もう、恥ずかしいとかそんなこと言ってる場合じゃない。
俺は静かに箸をおくと母さんの正面に立ち頭を下げた。


「お願いします! 俺にチャンスを下さい!!」