「あなたの婚約者ですよ。氷室紫帆さん」

そう冷たく目の前の彼が言った瞬間、今まで忘れていた婚約者のことを思い出す。そうだ、彼はあの写真で見た人だ。でも一体どうしてここがわかったの?会社にも教えないよう言ってあるのに……。

志麻さんは無表情で私を見つめる。無表情なんだけど、黒い目の奥には怒りが静かに燃えていて、体が震える。怖くなってドアを閉めようとすると、ドアを掴まれ、足を中に入れられてドアが閉まらなくなってしまった。

「ひどいなぁ、婚約者に対してそんな態度取るなんて……」

ドアをゆっくり志麻さんはこじ開けていく。男性の力になんて勝てなくて、ドアを開けられて志麻さんが中に入って来た。私はただ震えることしかできなくて、そんな私を志麻さんは抱き締めてくる。

「やっとお前と話せると思ったのに、逃げられてどれだけショックだったと思う。でも、俺から逃げられるなんて本気で思ってた?逃がすわけないだろ」