父親が会社を経営していて、ちょっと周りよりお金持ちなだけで人生をあれこれ決められるなんて、ほんとおかしな話だと思う。

私は氷室紫帆(ひむろしほ)。世間ではお金持ちのお嬢様と呼ばれる立場だろうけど、こんな家大嫌いだ。

私の母は、私が幼い頃に病気で亡くなったからほとんど記憶にない。だから、父はシングルファーザーになったわけだが、私は幼い頃から父が大嫌いだった。

父はやりたいことをやらせてくれない人だった。友達が習っているスイミングをしたいと言えば、何故かピアノを習わされる羽目となり、みんなが踊るようなダンスではなく、昔の人が踊るような舞や社交ダンスをさせられていた。

「こんなのしたくない!」

そう言えば、父は笑って「これが紫帆のためなんだよ」といつも言っていた。大人になった今なら、あの時の言葉の意味がよくわかる。あれは私をご令嬢として恥ずかしくないようにして、御曹司と結婚させるための花嫁修行のようなものだったのだろう。