空いている片方の手が私の顔の横をスっとなでる。
そしてそのまま私の左耳に髪をそっと掛けてから耳元に顔を近づけた。
その一連の流れがやけにスローで見えて、大人っぽい雰囲気を放っていて……。
「……期待、してる?」
そんな、甘くて少しだけかすれた声が耳元をくすぐる。
「それとも、その上目遣いと表情は無意識?」
また耳元で続く言葉にビクッと肩が上がる。
こんな近くで話すこともなかったし、さっきからやけに色気を出している颯真に対して緊張で息が止まりそうになる。
何?本当になんなの……?
何でこんなことするの……?
恥ずかしすぎて何だかよく分からなくなってきて、つい目に涙が浮かんでくる。
だから、せめてもの抵抗とばかりに睨んでみるんだけど、効果はなさそうで……。
「…………もぉ、颯真のバカ……。せっかく優勝祝いのご飯作って待ってたのに……何でこんな意地悪なの……?」
つい子供っぽいことを言ってしまった、と思ってももう無理。
こんなにドキドキさせられて、振り回されて。
しかも本人は全然余裕そうな顔してるのがすごく意地悪嫌だ。
私だけなんてずるい。

