涙色に「またね」を乗せて

セールスだったら承知しねえからなと思いながら、鍵を開けてチェーンを外す。その短い時間にも、あの忌まわしい音は三回も響き渡った。ちょっとは待てっての。

「はーい。どちら様……って、湊じゃん」

夏らしさを意識したシンプルな私服姿に不機嫌顔。暑い中玄関先で待たされたからなのだろうけど、そんな被害者面されましても。


「どしたの急に」

額に汗を滲ませながら、尚も不機嫌そうに言った。


「今日、姉さんの命日」


一瞬で状況を理解した。つまり湊は、私と一緒に墓参りに行く気なのだ。

予想外の展開に少し驚いた。決して彼女の命日を忘れていた訳ではない。でも、てっきり湊は両親と一緒に行くとばかり思っていたから。

幸いにもと言っていいのか、湊の家族と時間が被るのを避け、夕暮れ時に行こうとしていた。


「ちょっと待ってて。支度してくる」


残りのアイスを腹に収め、ドタドタと階段を駆け上がって自室に入り、Tシャツ短パンの部屋着からカジュアルなシャツワンピに着替える。

露出している箇所に日焼け止めを塗り、ショルダーバッグに財布と携帯を放り込んでから、再び階段を駆け下りた。付けっぱなしの方が意外と電気代は掛からないので、クーラーはそのままにしておいた。

「準備出来た。もう出れる」


それに対する返事は来ず、また私も特に返事を求めていなかったので、無言でドアに手を掛けた。