涙色に「またね」を乗せて

分かるような分からないような。恐らく彼女の心情は、大体はこんな感じだろう。それでいい。私自身、この件に関してはあまり触れたくはなかったから。

「それは私も例外じゃなくて。私も、あの人に憧れていたから、穂花ちゃんよりもずっと、重なる部分は多かったと思う」


だから、一番大事なものを捨てて、恋心すらも封印した。

失うことが怖くて、殻に閉じこもって全てを徹底的に拒絶する彼を、どうにかして救いたかった。


「そんな中、穂花ちゃんと湊が仲良くしているのを見て、私はこんなに我慢してるのに何でって。結局は、ただの嫉妬だった」


私が抱えていたもの。それは所詮、ただの稚拙な嫉妬だったのだ。

こんなにも醜くて苦しいのなら、恋という感情なんて、知らないままでいたかった。




「涙衣ちゃん。私ね、律樹君を好きになって、凄く凄く幸せなの」


桜貝のようなピンク色の、爪に視線を落としながら、そっと囁く。



「勿論、辛いことも悲しいことも、時には涙を零すことだってあった。でもね、たとえ片想いでも、傍に居られるだけで嬉しくて、胸がいっぱいになるの。それでね? 私、思ったんだけど……」

その表情は何処までも穏やかで、そして清らかだった。


「恋は、苦しい思いをした分だけ幸せなものになるんじゃないかな。だってそれだけ、相手のことを想ってるっていうことだから」


外は雨が降っている。

じめじめと陰鬱で、蒸し暑さすらも感じるような嫌な天気。

それなのに、カーテンに切り取られたこの空間だけは、春の陽だまりのように暖かかった。

彼女が口にした言葉は、私にしてみればただの綺麗事の域を出なくて、それでも、いつかはその綺麗事の通りになる日が来ると、無条件に信じさせてくれた。


「穂花ちゃん……」

「なぁに?」


目の前の少女は慈愛の表情を浮かべながら、言葉の続きを待ってくれる。


「……酷いことして、ごめん」


深い慈愛の表情が、桜の笑みへと移ろった。



「別にいいよ。友達じゃない」