涙色に「またね」を乗せて

言っているうちに恥ずかしさが込み上げ、赤くなった顔を髪の毛と頬杖で隠す。さっきはあんなにも吸い付けられた目線もあっさりと外し、そのまま机の左脇に掛かっている鞄へと移した。

「痴情のもつれって、普通友達に対しては使わなくねえか?」

「そこでマジレスしないでください。結構傷付きます」

お、悪ぃ悪ぃ。と笑う片桐先生は、以外にもツッコミに独特のセンスがあった。だがしかし、ここでそのセンスを発揮するのはやめて頂きたい。さっきから羞恥とは違った痛みで胸がじくじくと傷んでいる。


「まぁ、ただ喧嘩してるってだけなら別にいいんだ」

「別にいいんですか」

「痴話喧嘩に一々大人が口出してくるのってウザイだろ」

「流石、よく分かっていらっしゃる」



前言撤回。やっぱり私は、この先生が結構好きだ。



すっかり気が抜けて、先生につられて力なく笑う。体内に蓄積していた毒素が、ほんの少しだけ抜けた気がした。


「ちなみに、その好きなやつってのは……」

「言う訳ないでしょ」

「そりゃそうだよなぁ」


好きだと思った矢先にとんでもない質問をしてきた先生に対して、前言撤回の更に前言撤回をするべきかしらと考え直し、そしてそれは、飄々としている先生にしては珍しく憂いを帯びた眼差しによって掻き消された。




「でも、出来るだけ早めに仲直りした方がいいぞ。誰かを憎み続けるのは、周りが思っているよりも何十倍も苦しいからな」



「……それ、先生の経験談ですか?」


「いや、一般論だよ」



暗くなる前にさっさと帰れ。そう言った先生の顔には、何やら複雑な感情が隠されているように見えたけれど、そっと気付かない振りをした。