涙色に「またね」を乗せて

「あー! もう全然分っかんない!」



絶叫し、シャーペンを机の上に投げ捨てる。

ぐるりと首を回した途端、ポキポキと鳴った嫌な音は、そっと聞こえない振りをした。私はまだ若い。

時計を見ると、既に二時間近く経過していて、自分の秘めたる集中力に驚いた。

まだ最終下校時刻まで少し余裕がある。一息吐いてから帰ろうと体の力を抜いた瞬間、教室の扉がガラリと開いた。


「あれ、まだ残ってたのか」

白衣に茶髪に黒縁眼鏡。現れたのは、我らが担任片桐先生だった。

どうやら教室の鍵を閉めに来たらしく、鍵束のプレートをぶんぶんと振り回している。

状況と時間帯からしてさっさと帰れと促されるかと思ったけれど、私が真面目に勉強しているのが余程以外だったらしく、私の向かいの席を勝手に借りて興味津々そうにノートを覗き込んできた。


「星崎、問十五から先全部答え間違ってるぞ」

「えっ!? マジすか」


問二十まで解いていたので、六問間違えていたことになる。ぎょっとして、明日のテストが本気で心配になった。

片桐先生の解説を聞きながら、間違えたところを解き直す。歯が立たなかった問題が頭の中で咀嚼され、すらすらと手が進んでいく。

「それにしても先生って、化学の先生なのに数学も出来るんですね」

「まーな。元々理数得意だし」

「へー、羨ましい」


私なんて唯一の得意科目は体育ですよ。苦手科目ばっかりですよ。嗚呼、成績優秀な人の脳味噌をテストの時だけレンタルしたい。