涙色に「またね」を乗せて

おずおずと入ってきた少女は緊張の為か何も無いところで躓きかけたが、どうにか踏みとどまった。


おい、結構可愛くねえか? という男子のひそひそ声が、やけに遠くぼんやり聞こえる。



可愛かったのだ、その子が。



ピンクと水色の花柄シュシュで結ばれたさらさらの黒髪が右肩を伝ってするりと落ちて、雪のように白い肌はほんのりと色づいている。

長い睫毛に縁取られた黒目がちの瞳を中心とする顔の造形は幼さを残しつつも人形のように整っていて、鞄を掴む細長く白い指でさえも彼女の恥じらいと奥ゆかしさを表現しているかのように見える。

誰が見ても文句の付けようもない、清楚可憐な大和撫子。美少女コンテストに出場したら、満場一致でグランプリ受賞間違いなし。


桜貝のような唇が、ゆっくりと開かれる。



「青森県から来ました、愛葉穂花(あいばほのか)です。えっと……、1年間、よろしくお願いしますっ!」


おどおどと簡素な自己紹介を済ませたかと思いきや、勢いよく頭を下げる。椅子が倒れたような気がするけれど、そんなことはどうでもいい。


立ち上がって、私は叫んだ。


「天使かっっ!」



確かにあの時、私には真っ白な羽が見えたのだ。