涙色に「またね」を乗せて

「うっさいなぁ。まだ後一週間もあるんだから別にいいじゃん。明日から本気出すっての」


あれ、昨日も同じこと言わなかったっけ。都合の悪いことまで思い出してしまったので、嫌な記憶はそっと頭のゴミ箱に封印した。



「まぁ別に僕は涙衣が留年しようと正直どうでもいいんだけどさ。昼休み、勉強会断ってたじゃん。確かにああいう集まりで涙衣が真面目に勉強するとは微塵も思ってないけど、穂花ちゃん、成績は優秀みたいだし。教えて貰わなくて大丈夫なのかなって」


でも、誰に勉強教わろうと馬鹿は馬鹿か。と失礼極まりない発言すらも素通りする。

鋭く研ぎ澄まされた刃物で突き刺されたように、心臓の辺りがグッと傷んだ。心なしか、どくどくと生暖かい血がシャツを濡らしているような気さえもする。

湊の毒舌に傷付いた訳じゃない。そんなのはもう慣れっこだ。それよりもーー。



湊、穂花ちゃんのこと下の名前で呼んでる。



最初は、あの子という呼び方だった。


それを他人行儀過ぎると私が言って、いくつかの押し問答の末に苗字にちゃん付けという形でお互い妥協したのだ。

どうしてそんな急に。一体何があったの。

疑惑と不信感がどす黒いヘドロと化して、体を巡る血液に混じり合い、蝕んでいく。


嫌だなぁと、心の中で嘲笑った。