あの忌々しい出来事の後、穂花ちゃんから、無事律樹にパウンドケーキを渡せたと報告された。当然といえば当然だけど、湊の名前は出てこなかった。

それから、穂花ちゃんの恋路は中々に順調で、時々恥ずかしそうに話す惚気の内容からも、あの日私が見たものはただの幻覚か、もしくは何か事情があってのことだったのだと推測出来た。


それだけで済んでくれたなら、どんなに幸せだっただろう。


一応の誤解は解けたものの、もしかしたら湊が穂花ちゃんを好きかもしれないという根拠不明の仮説が浮き上がり、私の頭を悩ませる。



それ以上に、湊への想いを認めてしまったことを、何度も何度も後悔した。


ずっと気付かない振りをしていた恋心は、あんなにも厳重に閉ざしていたにも関わらず、いとも簡単に私から冷静さを奪い去る。


誰かを好きになるということ。それは、本来ならとても幸せで素敵なことなのかもしれない。


が、私にとっては、嫉妬と自己嫌悪に塗れた、とても醜い感情でしかなかった。


だからせめて、彼を傷付けるものを徹底的に排除してきたというのに、最終的にはこのザマだ。