「涙衣ちゃん?」




怪訝そうな穂花ちゃんの声に我に返る。えっと、何の話をしていたんだっけ。



「えっと、勉強会の話だよね。悪いけど、私パスで」


「……そっか。分かった」


眉を下げてシュンとする友人から目を逸らすようにして、教科書の文字に目を落とす。

あれ以来、穂花ちゃんとは普通に話しているけれど、強く芽生えた嫉妬の所為か、どうしても会話を早めに切り上げたり、必要最低限以外はなるべく関わらないようにしてしまう。

稚拙な嫉妬心から来る無意味な八つ当たりとは分かっていても、思考と身体が切り離されたように別々の行動を取ってしまうのだから、もはや末期症状だ。


内容が頭に入ってこない。教科書の文字を文字と認識出来ない。


自習は潔く諦めて、イヤホンで耳を塞いで目を閉じる。大音量で流した音楽の裏側で、穂花ちゃんの名前を呼ぶボーイアルトが聞こえたのは、きっと聞き間違いだろう。