「……やっぱり、怖い」
これ以上、惨めな思いはしたくない。
この期に及んでまだそんなことを言うのか。とでも言いたげな溜息が隣で聞こえたけれど、こんな弱い人間が、そう簡単に強くなれる筈がない。
「あの取り巻きの女の子達が気になるの?」
コクリ。無言で頷く。
「あんなの、動物園の猿に餌付けしてるのと同じでしょ」
あまりの物言いに、クスリと笑みが漏れる。
「涙衣ちゃんと、同じこと言うんだね」
「そりゃあ幼馴染だからね」
素っ気ない声はやっと通常運転に戻り、気が抜けたのか、別の意味で泣きそうになった。
普段の私なら、その素っ気ない声に隠された複雑な心情にも何か勘付いたのかもしれないけれど、生憎そんな精神状態ではなく、逆に背中を押された気になってしぼんでいた決心が少しずつ膨らんでいった。
気が付けば、湊君はもう私に背を向けて帰路に就こうとしていた。
「じゃあ、僕はもう帰るから。頑張ってね、穂花ちゃん」
最初は意味が分からなくてポカンとしたけれど、しばらくして嬉しさに頬が紅潮した。
初めて彼が口にした、私の下の名前。
ただそれだけ、たったそれだけのことで奇妙な自身が湧いてきたのだから、案外人間は単純だ。
「あ、ありがとうっ……!」
遠ざかっていく後ろ姿に向かって叫ぶと、振り返ることはしないまま、ヒラヒラと手を振ってくれた。

