涙色に「またね」を乗せて

「えっ、嘘。何処?」


手鏡だなんて女子力の高い代物は持ち合わせていないので、スマホのカメラ機能で確認する。確かに、左端の前髪が元気にぴょこんと跳ねていた。


「あー本当だ。最悪、これ全然直らないじゃん」

押さえ付けても手櫛で梳かしても、多少マシになるだけで完全には戻らない。


誰か、寝癖直しとか持ってないかなぁ。



苦戦していると、湊がペットボトルの水をぶっ掛けてきやがった。

幸い、少量だったので漫画のようにびしょ濡れになることこそはなかったが、いきなり水を掛けられて黙っていられる程私は人間が出来ていない。


「冷たっ! ちょ、いきなり何すんの!?」

「これで直ったでしょ?」


雑だけど優しい手つきで、私の髪を撫で付ける。あんなに頑固だった寝癖は、跳ねていたのが嘘みたいに元通りになっていた。


「直ったけどさ、普通水掛けたりする?」


でもまあ、ありがとね。小声で付け足すと、「どういたしまして」と可笑しそうに返される。まさか聞こえていたとは思わなかったので、ほんの少しだけ耳が熱い。誤魔化すように髪の毛で隠して、今更のように自分の席に着いた。