「私ね、その……」




ゴクリと、生唾を飲む音がする。



「律樹君のことが、好きなの……」



消え入りそうなか細い声。


言われたことを理解するのに、たっぷり十秒はかかってしまった。

穂花ちゃんに好きな人がいる、だと? 相手は何処の馬の骨よ。おいおい何言ってるんだ私、律樹だってさっき本人の口から言われたじゃないか。

OKそういうことね。穂花ちゃんが、律樹を好き。いや待って、ちょっとタンマ、律樹って、確かあの……。



「はああああああああ!?」


バッと身を乗り出して、ガッと穂花ちゃんの肩を掴む。そしてそのまま、ぶんぶんと前後に揺さぶった。


「穂花ちゃん正気に戻って! ねえ今なら間に合うから! てか何で律樹!? え、待って待って待って。ねえ嘘でしょ? 嘘だよね? 嘘って言って頼むからぁ!」

「ちょ、涙衣ちゃん落ち着いてっ」


そこで、ようやく脳の正常さが帰ってきた。おかえり、私の理性。


穂花ちゃんの華奢な肩から手を離し、ちょっと冷静になって考えてみようではないか。


放課後の教室で雄叫びを上げる女子高生、私。

友人の肩を揺さぶって我を失う女子高生、私。


どう見ても危険人物である。



「…………スミマセン。」


今度は私が、消え入りそうなか細い声で謝罪した。