涙色に「またね」を乗せて

「涙衣」



透き通った、柔らかなボーイアルト。大好きな声に顔を上げると、ふわりと優しく抱き締められた。

嬉しくて、その体温に体を預ける。昔は背だって私の方が高かったのに、今となってはヒールを履いたって敵わない。

湊の手が、私の前髪をかき上げる。どうしたのと顔を上げるのと同時に、額にちゅっと柔らかいものが触れた。


そんな、ここ、ほぼ外なのに。


全身に集まる熱で血液が沸かされる。慌てて離れると、照れくさそうに湊がはにかんだ。


「じゃあ、また。体に気を付けて」

そろそろ五分。もう乗らないと間に合わない。

時間ギリギリだ。と思いながら湊の襟首を引っ張って、強引にその唇を寄せる。

そして列車に飛び乗って、最後に一言。



「またね!」



そう言うと同時に扉が閉まった。本来ならすぐ先に座っている両親と合流すべきなのだが、へなへなとその場にしゃがみ込む。


口元を手で押さえると、じわりと涙が滲んできた。


どんな理由をつけようと、別れ際にドラマチックなキスをしようと、寂しいものはやっぱり寂しい。

そっと、髪飾りのクリップを外す。

あの時湊がくれたもの、それは、勿忘草の髪飾りだった。

春の空のような上品な空色の小花が数輪咲き、そこにパールの飾りや淡い水色やグリーン、透明な雫型の石が可憐さを添える。

大人っぽ過ぎず可愛過ぎず、絶妙なバランスのデザインだ。

勿忘草の花言葉なんて調べずとも知っていて、彼が何をもってしてこれを選んだのかは最初から分かっていたけれど、それでも、愛おしさに胸が鈍く痛む。


さっき私は、またねと言った。


それは、これが永遠のお別れではないということ。

たとえそれが涙に染まったものだったとしても、また巡り合えるということ。



今はまだ寂しさの方が勝るけれど、きっとどうにかやっていける。




何の根拠もなく、そう確信した。








【完】