「じゃあ、私そろそろ行くね」

「うん……」

「もう、そんな顔しないでよ。どうせ一年で帰ってくるんだから」

「で、でもぉ……」

寂しそうに泣きじゃくる親友をそっと抱き寄せる。彼女がぎゅっと私の背中に腕を回したのでぽんぽんと背中を叩いて宥めていると、甘酸っぱいさくらんぼの匂いが鼻腔をくすぐって、私まで泣きそうになってしまった。


「穂花。寂しいのは分かるけどそろそろ離れてやれ。湊が爆発しちまう」


「嫌だぁっ! 湊君なんか爆発しちゃえ!」


「あいつの爆発で一番被害受けるのは俺なんだよ」


「律樹はもうちょっと悲しんで?」


なぜこいつは通常運転なんだ。後五分で新幹線乗るんだぞ。アイドルの引退式くらい寂しがってくれてもいいのに。



「ごめんね穂花ちゃん。ちょっと離れてくれるかな?」



ニット素材のカーディガンを着た穂花ちゃんの襟首を掴んで、湊が若干無理矢理引き剥がす。


「え、ちょ、まだ話したいこと沢山あーー」

「ほら行くぞ。邪魔しちゃ悪いだろ」


今度は律樹が、彼女の手を取って引っ張っていく。だいぶ彼氏役が板についてきたようだ。一度だけ振り返り、「元気でな」と目だけで告げられる。「お前もな」と視線だけで返しておいた。