涙衣の口から転校の話を聞いた時、真っ先に感じたのは諦観だった。

あぁやっぱりとか、あの話は本当だったんだとか、宙に浮かぶシャボン玉みたいな浮遊感。

それから家に帰って、不安がじわりじわり。

性格はドアホ女王と呼ばれる程の破綻っぷりだというのに、人を惹きつける謎の魅力。容姿だって、口さえ開かなければ美人という言葉では形容しきれない。

転校先でも、上手くやっていけるに違いない。

だから不安が纏わりついた。ただ傍に居るというだけで無条件に笑いかけられていた僕は、たった一度離れるだけで、すぐに忘れ去られてしまうのではないかと。

引き裂かれる寂しさもある。でも、それは永遠ではない。ある程度の時が経てばまた会うことが出来る。

けれど、もし忘れられてしまったら。また涙衣がここに帰ってきてくれたとしても、二度と昔のようには戻れない。


「忘れないよ。絶対に」


この言葉だって、一年後には嘘になっているかもしれない。

だけど、僕は一切疑わなかった。

理由は簡単。涙衣がそう言ったから。

他の奴の言葉だったら鼻で笑っていただろう。そんなこと誰が信じるものか、と。

それなのに、信じてしまった。

大切な愛しい彼女がすぐ隣の家に帰って、一人きりの部屋でスケッチブックのような形をした来年度のカレンダーを撫でる。

嬉しさに、唇の端が思わず緩んだ。