涙色に「またね」を乗せて

「……鍵空いてるんですけど」



うちのお母さんじゃないんだからと呟きながらお邪魔する。玄関に入ってから、きっちり鍵を掛けておいた。

階段を登っているうちに、もしかしたら湊が空けておいてくれたんじゃないかと少し思った。そこまでして会いたかったのかと思うと、ちょっとだけ愛しい。

湊の家には、もう何度も訪れた。だから、彼の部屋が二階の突き当たりの左側にあることも、仏壇の場所も知っている。それなのに、湊が私に来てと言った理由を知らない。

扉を叩き、声をかける。


「湊? 来たよ」


返事が無い。扉を開けると、薄暗いベッドにこんもりとした山があった。

恐らくあの山の中に、彼の姿があるのだろう。

ベット脇まで近付くと、ようやくちらりと顔が覗いた。


「熱は? 測ったの?」

「微熱まで下がった、けど頭痛い」

「水とゼリー持ってきたけど、いる?」

「……そこ置いといて」


まだ食欲は戻っていないのか、昔からずっと使われているローテーブルを指で示す。

その年季物のテーブルにはスポーツ誌や漫画の単行本が何冊か乱雑に置かれていて、一応は女子である私なら絶対に読まない系統だなとぼんやりと思った。

雑誌がテーブルのかなりの面積を占めていたので、隅の方に退かしてから持ってきたものを並べる。急いでいたのであまり手元を見ていなかったのだが、ゼリーは桃とオレンジの二種類があった。湊は多分、桃の方が好きだろうな。