涙色に「またね」を乗せて

小さな矜恃の攻防戦。夫婦漫才と揶揄されたやり取りの中で、私達は静かにそういったものを繰り広げていた。

互いの琴線に触れないように、心の扉を開けたとしても、チェーン越しに会話をする。

幼馴染にしては付き合いが浅く、友達と呼ぶには距離があって、けれど決して他人ではない。私と律樹は、そういう関係性だった。


無言で拒否反応を示し、それでも尚引き下がる気が無いことを悟って、苦い溜息と共に降参の意を示す。




「『知ってる』だってさ」




律樹は無言だった。何かしら表情で反応を示すかもしれないと期待したが、それすらも見受けられない。ただただ呆然と、虚空だけを見つめている。


やがて、糸が切れた操り人形のように前のめりに倒れ、額を強かに打ち付けた。一応ここ店なんだけど。



「マジかよ……」



マジかよはこっちの台詞だ。こいつはまさか、額にたんこぶを作る為だけに私を呼び出したのか。何てはた迷惑な野郎なんだ。



「……まぁ、何というか……、元気出せよ…………」


やたらと弱々しい声で、頭を抱えながらのそのそと起き上がる。前髪に隠れた彼のおでこは、残念なことに無事だった。