涙色に「またね」を乗せて

パレットの上で絵の具を混ぜ合わせると、酷く暗い色が出来た。

描いているのは和やかな田園だというのに、これではいけない。

「っああああああ……」

獣の雄叫びの如く唸り声を上げ、そのまま頭を抱え込む。


原因は、考えずとも分かっている。

数日前、ありったけの勇気をかき集めて転校を告げた私に、湊はこう言った。



ーー知ってる。



詰られるか、引き留められるか。他にも様々な返答を想定していた。けれど、まさか知っていたなんて。


唖然とする私に湊が、「この間、おばさんがうちに挨拶しに来た」と付け加える。体中を巡る血液が、急速に温度を失った気がした。


なぜ隠していたのかと、責められるかと思った。詰め寄られて罵られて、ひよっとして泣かれるかもしれないとさえ思った。

だけど彼は一言も発さず、二人が帰ってくるまで沈黙を守り続けた。

何を言われようと受け入れる覚悟はしていた。どんな言葉も甘んじて受け入れるつもりだった。


なのに、それなのに、何も言ってくれないなんて。悲しみの一欠片すらも見せてくれないなんて。


あれ以来、胸がもやもやと気持ち悪い。もうすぐ三学期も始まると言うのに、この気持ちに名前を付けられず、悶々とただ時間だけが過ぎていく。

勉強机の上には、高校のパンフレットが数冊広がっている。たった一年しか通わないとはいえ、真剣に選ばなくてはいけない。

もしかすると、転校を経験した穂花ちゃんもこんな葛藤に苛まれたのだろうか。同じ立場になって初めて分かることもある。

今度相談してみようか。いずれ学校にも話さないといけないから、片桐先生でもいいかもしれない。

未だ心の整理がつかなかった話が、一気に現実化していくような感じがした。