涙色に「またね」を乗せて

湊と付き合い始めて最初にしたことは、クローゼットに仕舞っていたものをもう一度部屋に飾ることだ。



昔コンクールで受賞した時の賞状やイーゼルに、まだページの残っている黒い表紙のスケッチブック。

何となく取っておいた油絵まで飾ると言い出した時は、全身全霊で反対した。いくら何でも、自室に自分の絵を飾るのは流石に恥ずかし過ぎる。


協議の結果、私が描いた梓さんの絵のみを飾ることに落ち着いた。

湊曰く、「僕が涙衣の部屋に来た時に、真っ先にこの絵を見られるようにしたい」だそうだ。そんなに見たけりゃくれてやるよ。と思ったし実際に言ったのだが、それはそれで複雑なのだとか。男心、よく分からん。

とはいえ、己の拙い絵の中だとしても、大切な人に見守られているというのは中々に悪くない。彼が私の絵を持ち帰らなかったのは、これ以上、梓さんの面影に縋らない為だったのではないかとたまに思う。


「綺麗な絵……。涙衣ちゃん、絵上手なんだね。凄いなぁ。私、こんなに上手く描けないや」

穂花ちゃんが、感嘆したように溜息を漏らす。褒めて貰えるのは嬉しいけれど、こうも面と向かって言われると、恥ずかしいというか何というか、返って少しいたたまれない。

その場を誤魔化すように、爪楊枝を刺した林檎を口に運ぶ。その辺のスーパーで売っているものよりも、遥かに甘くて瑞々しい。


「ヤバいよ穂花ちゃん。これめっちゃ美味しい。私、将来はこの林檎育てた人と結婚するわ」

あからさまな誤魔化しに、若干胡乱げな目で見られてしまったが、もうすっかり慣れてしまったのか、苦情を言われることは無かった。

それに、多少オーバ気味にリアクションしたけれど、美味しいのは本当だ。