涙色に「またね」を乗せて

「あー! もう最悪!」


コントローラーを放り投げて叫んでも、不名誉な結果は変わってはくれない。結局、私が行かなくてはならないのだ。

せめて最大限の防寒対策をしていこうと使い捨てカイロを求めて引き出しの中を漁っていると、どういう訳か湊まで腰を上げて焦げ茶色のコートを羽織り始めた。


「え、何?」

「やっぱり僕も行く」


目を見開いた。だって、彼も外に出たくなかったから、私の提案に乗ったのではないのか。


「涙衣だけだとチキン落っことしてきそうだから」

私の方が数ヶ月お姉さんだというのにこの子供扱い。それでも癇に障らないのは、決して私の秘めたる恋心の所為だけではないだろう。

「はいこれ。あんたも持って行きな」


使い捨てカイロを手渡す時に、指先がほんの少しだけ触れた。刹那の感触をむず痒く思ったのが私だけじゃないといいなと小さく祈りながら、滑らかな素材のチェック模様のマフラーを巻いた。

みぞれで肩を冷やさないよう、傘を差して二人で歩く。クリスマスだというのにこの悪天候。律樹達はショッピングモールに行くと言っていたけれど大丈夫だろうか。せめて彼らが帰る頃には、純白の雪に変わっていることを願う。

チキンを予約したお店は所謂隠れ家レストランという奴で、新鮮な緑に囲まれた小道にひっそりと、白い建物を構えている。以前何度か訪れたことがあるけれど、人参のグラッセがお菓子みたいに甘くて絶品だった。

このレストランも、晴朗な青空の下ならさぞかしファンシーに見えただろうに、残念なことこの上ない。

チキンが冷めてしまう前に急ぎ足で家に戻ろうとすると、手に持っていた袋をひょいと取り上げられた。奪った袋を腕にぶら下げた湊は「どうせ涙衣じゃ落とすでしょ」とひにくたっぷりに言い、さっさと先を歩いていった。

その背中を追いかけながら、頬が染まり、口元が綻んでいくのを、何処か他人事のように感じていた。