涙色に「またね」を乗せて

一ピクセルも実にならない会話をしながらちんたら歩いてきた私達を見て、片桐先生は盛大に怒りを爆発させた。

これもビックバンっぽいよなぁと、頭の上で繰り広げられるお説教の全てにハ行で返事しながらふと思う。ここにも居たか、創造主。


一時間目は数学だった。


夜中の3時までゲームをしていたのと、今朝の一波乱が蕩けるような眠気を誘い、一瞬にして夢の世界の住人と化す。湊に起こされなかったら、軽く午前中はずっと眠っていただろう。



「ねぇ」


乱暴に肩を揺すられて、重い瞼が薄く開く。時計を見ると、授業時間は残り十分に減っていた。


「これ見てよ」


安眠を妨げられたことによる不快感は、こっそり見せられたノートによって愉快な笑いにすり替えられた。



そこには、林檎のようなものが描いてあった。


白黒デッサンのそれには何故か無駄にムキムキな手足が生えていて、おまけに触覚がびょーんと伸びている。


「タイトルは?」

「林檎かもしれない」


授業時間をこの落書きに費やしていたのかと思うと少し呆れてしまうけれど、それはこの際どうでもいい。まず先に、この笑いを誰かと共有しなければ。