涙色に「またね」を乗せて

ふと、湊が動く気配がして、見てみると何を考えたのやら、右手を挙げて手のひらをこちらに向けていた。


「え、何?」


訝しく思い目を細める。やあってこと? 挨拶でもするつもり? 今更?


「ハイタッチ。クラスの皆とはしたけど、涙衣とはまだしてなかったから」



そういえば保健室に行く傍ら、応援席がやたらと盛り上がっていたのをちらりと見た気がする。楽しそうだとか、羨ましいだとか思う余裕は無かったけれど。

それでも、面と向かって言われると、心がぽかぽかと陽溜まりに満ちた。

普段の私だった。こんな真似は絶対にしなかった。

いくら優勝が懸かっているとはいえ、湊の足の速さを考えれば足に負担を掛けないようもっとスピードを落とすことだって出来た。もし私が実際にそうしていたとしても、結果は変わらなかっただろう。


分かっていてそうしなかったのは、わざわざ自らの意思で苦しい方を選んだのはーー。


湊に一位でバトンを渡したかったからだと言ったら、笑い飛ばされてしまうだろうか。

そっと、広げられた手のひらに自分の手を重ねる。あのキレのいい音の代わりに、ぱんと小さく鳴り響いた。

温かくも冷たくもない感触は、戯れで触れる女友達のそれとは随分と違っていて、性別の違いをいやでも実感させられた。


ハイタッチと呼ぶにはあまりにも静かで優し過ぎる重ね方に、湊は何も言わなかった。