涙色に「またね」を乗せて

「そうだ。椅子、応援席に置きっぱなしだ」

「あぁ、それなら律樹の馬鹿が運んでいったよ。無駄に体力が有り余ってたみたいだし、丁度いいんじゃない?」


皮肉混じりの口調すらも妙に落ち着いていた。気を使っているつもりなのか。いつかの墓参りを彷彿とさせる居心地の悪さと矛盾する安心感に身を委ね次の言葉を待つ。


伊達に幼馴染はやっていない。こいつが何を言いに来たのかなんて、最初からお見通しだ。



「……足、大丈夫?」


彼にしては珍しく遠慮がちな声。滅多に聞けない声色に、口元が弛みそうになるのを堪える。


「ん」


そろそろ行かないと、HRに遅れてしまう。下駄箱に上履きだって取りに行かなくてはいけない。それでもまだ少しだけ、この居心地のいいぬるま湯に身を浸していたかった。

疲労も相まってか余計に立ち上がるのが面倒になり、かと言って場を持たせる秀逸な話題がある訳でもなく、怪我を免罪符にその場に留まった。


本当はあの薄い肩に頭を預けてしまいたかったのだけど、それにはまだ羞恥が勝った。