涙色に「またね」を乗せて

「骨は折れていないみたいね。でも相当腫れているわ。優勝したいのは分かるけど、無理に走ったりしちゃ駄目よ。応急処置は終わったから、今日中にちゃんと病院へ行くこと。いい?」


やわらかな口調でしっかりと釘を刺され、素直にはぁいと返事する。この調子だと、体育は当分見学だろう。

少し休んでいく? と尋ねられ、緩慢な動作で頷いた。閉会式はもう間に合わないけれど、HR後の集合写真には写りたい。閉会式が終わる頃、私も教室へ向かえばいい。

不思議なことに手当をされるだけで一気に痛みが和らぎ、逆にあの状態でよく走れたなと我ながら感心してしまった。

取り立ててすることも無く、一定のリズムで秒針を刻む時計を眺め、想像以上に時の流れが遅いことを知る。

アンティーク製でも何でもない安物の時計の鑑賞にも飽きてきた頃に、先生は片付けがあると言い保健室を出て、その一言のおかげで閉会式が終わったのだと気が付いた。

熱はだいぶ引いてきた。この調子なら、歩く分には問題無いだろう。応援席に椅子を取りに行かなきゃと億劫に思いながらも腰を浮かせようとした瞬間、グラウンドに繋がる扉が音を立てて開いた。



「閉会式終わったよ」


無駄のない所作で靴を脱ぎ保健室に入ってきたのは、普段より幾分か静かな様子の湊だった。


「ちゃんとうちの組が優勝したよ。夜に集まって打ち上げするってクラスの皆が言ってたけど……、その様子だと涙衣は打ち上げよりも病院かな」


静謐な声でつらつらと言葉を並べながら遠慮無く私の隣に座る。ほんの少しだけ肩が触れて、布越しに僅かに伝わる体温に妙に安心した。ときめきとは違う、羽毛のような心地よさを感じる温かさ。