涙色に「またね」を乗せて

「いいかお前ら! もうこうなったら意地でも一位取るぞ! そして優勝して、片桐先生に焼肉奢らせるぞー!」



リレーメンバーの陸上部部員の雄々しい声に、男子のほぼ全員が「おー!」と拳を振り上げる。片桐先生が心底嫌そうに「おいやめろ」と呟いているのにさえ目を瞑れば、クラス一同が結束している感動的な瞬間である。

そしてその感動的な瞬間に水を差すと、正直このノリは勘弁して欲しい。ここでもし負けてしまったら、矛先は確実にリレーメンバーに向かい、その後メンバー内で戦犯探しが始まってしまう。

憂鬱だ。今すぐ家に帰ってシャワーを浴びて寝たい。しかもこのプレッシャーは、他学年の生徒からも向けられるのだ。

いくら一人ではないといえ、さっきからストレスで胃がじくじくと痛んでいる。私にもそんな繊細さがあったのかと驚く余裕なんて無い。助けて神様。


「涙衣」


唐突に名前を呼ばれて振り返る。同じく緊張に押し潰されそうになっているのを耐えているのか、それともただ単にリレーなんてどうでもいいと思っているのか、普段とさほど変わらない表情の湊が、「もう行かないと」と私を急かした。

「う、うん」


慌てて後ろをついて行く。せめてヘマだけはしませんようにと、心の中で小さく祈りながら。