久し振りにクローゼットに封印していた段ボール箱を引っ張り出し、乱暴にそのガムテープを剥がす。

中に入っているのは昔入賞したコンクールの症状や黒い表紙のスケッチブック、そして私の相棒とも言える油絵の具などだ。

さっき買ってきたキャンバスをイーゼルに立て、目を瞑り呼吸を整える。閉じた瞼の裏側に、鮮やかな世界が浮かび上がってきた。


描きたいものは二つ。


あのサンセットビーチに浮かぶ人影と、浴衣姿の梓さん。

記憶の宝箱に眠る景色と、もう二度と見ることの叶わない姿。


穢れない純白の布地に、鉛筆を滑らせて大まかな景色を描く。

刹那、身体中を感情の渦が包み込む。


背徳感。罪悪感。高揚感。幸福感。満足感。



ーー絵はね、最初は曖昧な輪郭だけど、段々とはっきりとした綺麗な世界が見えてくるんだよ。



遠い昔、私に絵を教えてくれた梓さんの声が蘇る。


うきうきと音楽を奏でるように軽やかに筆が進み、一刻も早く完成させたいと、大事な下絵の段階すらももどかしくなってくる。

不思議と二年のブランクは全く感じなくて、むしろブランクなんて本当は存在しなかったのではないかと疑ってしまいそうになる程に、生き生きと私だけの景色が構築されていく。

そうして描き続けて居るうちに、嫌でも実感させられた。



やっぱり私は、絵が大好きだ。