涙色に「またね」を乗せて

翌朝、辛うじて目覚ましの五分後くらいに起きることに成功し、リビングに通じる階段を降りると、お母さんがコーヒーを啜っていた。


足音に振り返ったお母さんが、私を見て微笑む。


「涙衣、おはよう」



うちのお母さんは周囲からはおっとりとした美人で、でも芯はしっかりしているというふうに見られガチだけど、実際はかなりのおっちょこちょいだ。


戸締りのし忘れなんて可愛いもので、時々ウケ狙いとしか思えないようなことを平然とやってのけてしまう。



「今レンジで目玉焼き温めてるから、ちょっと待っててね」


そう、今みたいに。



「え、待って。それ、ちゃんと黄身に穴開けたよね……?」

「穴? 開けてないけど」


恐る恐るした質問の返答に、頭を抱えたくなった。


目玉焼きをレンジで温めると、圧力の関係で卵が爆発する。


事前に爪楊枝で黄身に穴を開けておけば防げるのだが、どうやらこの人はそれをしなかったらしい。


慌てて電子レンジに駆け寄るも、時既に遅し。



私がキッチンに滑り込んだ瞬間に、卵が盛大に飛び散った。