涙色に「またね」を乗せて

それを言うとバケツ一杯分の水を用意した湊に、

「何、もしかして怖いの?」

と小馬鹿にしたように笑われた。


「違うわい!」

力任せに袋を空け、適当なものを引っ張り出して強引にひったくったライターで火を付ける。後から見ると、それは十色に変色するタイプのものだった。

細い棒から吹き出す赤色の光。それは橙色から黄色、緑系から青を通して紫へと虹の如く変貌を遂げ、白い光を最後に寿命を終えて消え去った。

消えては次の花火を付け、また消えたら新しいのに取り換える。その一連の動作でバケツの中の骸はどんどんと増えていき、とうとう残るは線香花火のみとなってしまった。

ライターで火を灯した途端、パチパチと火薬が弾ける音がして、朱色の火花が小さく辺りを照らす。


ひんやりとした夜風が、剥き出しのうなじを撫でていく。微かに立ち込める煙の匂いを嗅ぎながら、ぼうっと火の玉を見守った。




「にしてもさ。夜の神社って、幽霊とか出てきそうだよね」


遠くから聴こえる民謡の、名前が一向に思い出せない。


「そんなに怪談話がしたいの?」

線香花火から目を離さずに、ついでに言うと火が消えないように手で風よけを作りながら、呆れ声で湊が言う。いや、呆れ声というのは私の自惚れで、実際には意識の半分も持って来られなかったかもしれない。



「もし、さ。梓さんが幽霊とかして出てきたら、どうする?」


ひぐらしがずっと鳴いていたことに、今この瞬間気が付いた。晩夏の音頭となる声は、刹那的過ぎる蝉の命を悼んでいるようにも聴こえる。


「何その冗談。笑えない」

我ながら、残酷なことを口にした。


だけど、この火花が落ちたなら、祭りはもう終わってしまう。そうしたら後は家に帰ってシャワーを浴び、歯を磨いてベッドに潜れば、今日は終わって当然のように明日が来る。

その明日を許されなかったあの人に、何故か無性に会いたくなった。

当時の姉よりも年上となってしまった彼は、一体何を思っていたのだろう。もしも本当にあの人が幽霊として目の前に現れたら、一体何を言うのだろう。


そして私は、どういう選択を取るのだろう。



「「あ」」



殆ど同時に、火の玉がぽとりと地面に落ちた。