涙色に「またね」を乗せて

木の幹に寄りかかるようにして、湊は腕を組んでいた。



藍色に薄浅葱色の細いストライプが入った浴衣に身を包み、不機嫌そうに眉根を寄せる。遅いとでも言いたいのだろう。レディの支度には時間がかかるというのに、失礼な奴だ。

意外なことに声を大にして文句を言われることは無く、すぐに不機嫌面は元の無表情に戻された。

その表情すらも様になっていて、女の私より云々の嫉妬は湧いてこず、素直に感嘆の念を抱く。


「はー、あんあ本当に浴衣似合うねぇ」

「そりゃどうも」

「で、私は? 可愛いって言ってくれないの?」

「はいはい。可愛い可愛い」

「棒読みじゃねえかこの野郎」


浴衣姿の女の子を目の前にしても顔色一つ帰ることはせず、さっと踵を返して薄暗い石畳の上を歩く。出店への期待や穂花ちゃんと律樹のデートやらで、墓参りに行った時よりも会話は弾んだ。



こんな風に二人きりで楽しく話したのは、一体何年振りだろう。


学校には律樹や穂花ちゃんが居るし、家が隣の幼馴染同士となると案外べったりと行動を共にすることは無い。

二人で話す機会もあるにはあるけれど、そういった時は長年の付き合いによる慣れも相まって、どうしても素っ気なさが出てしまうのだ。

でも違った。今年はどんな屋台が出ているのか。お気に入りの屋台はまだ残っているのか。盆踊りは踊るのか。去年までは律樹と三人で。その前は梓さんも一緒に。よくよく考えると、湊と二人だけで夏祭りに行くのは、これが初めてではないか。

まだ何も知らなかった幼い頃は手まで繋いで、無邪気にはしゃぎながらこの道を駆けていったのだろうか。覚えていないや。


一人しんみりと昔を思い出したとて、声に出さなければ湊と共有することは出来ず、一時の些末な感傷は、夏風と一緒に掻き消した。