涙色に「またね」を乗せて

小学五年生くらいからだっただろうか。彼が私達と部活仲間以外に冷たくするようになったのは。

元々Sっ気のある人間だったけれど、他人に対してはむしろ軽い嫌悪感を出すようになった。

そうなってしまったのにはそれ相応の理由があるのは理解しているけれど、こうも露骨に毒を吐くのはやめて欲しい。


「じゃあ、二人共これから部活でしょ? 頑張ってね。私もう帰るから。行こう、穂花ちゃん?」


「お、おう……」


一気にまくし立てる私に若干たじろいている律樹をガン無視し、未だに湊の発言を気にしているらしい穂花ちゃんを連れて教室を出た。


「ごめんね、あいつ普段からあんなでさ。気にしなくていいから」

「あ、はい……」

「あー、そうだ。自己紹介まだだったよね。私の名前は星崎涙衣。よろしくね」

「えっと、はい。こちらこそよろしくお願いします。星崎、さん?」

「固い固い。涙衣でいいよ。後、敬語も無し。気楽にいこ?」

「あ、はい…、じゃなかった。うん!」


桜並木を歩きながら、色々なことを話した。



穂花ちゃんのご両親が小さな雑貨屋を営んでいること。他校に双子の兄が居ること。転校間際に地元の友達がミサンガをくれたこと。


最初こそは緊張気味だったけれど、段々と心を開いてくれたのか、分かれ道では桜のような満開の笑顔で手を振ってくれた。


細い手首に巻かれた腕時計の下で、ピンクとオレンジのミサンガがキラキラと輝いていた。