『君』の代わり。


帰りに玄関で朝日奈に会った



「星野、バイト?」



「いや、今日は休み
なんで?」



もしかして

待ち伏せ?

とか思ったりした



「星野バイトだったら
コンビニまで一緒に行こうかな…って…」



「なんか買うのあった?」



「ん?ないよ
星野、どっか行くの?」



「どこに?」



「せっかく休みだから…」



「どこも行かないよ」



「そーだよね
何もないもんね
遊ぶとこないよね」



「うん…」



何もない田舎で過ごして

3年が過ぎた



ホントに何もないけど

朝日奈がいればよかった



「星野、いつも家で何してんの?」



「んー…だいたい本読んでる」



「へー…すごいね
本好きなの?
何読んでるの?」



「ん、適当
小さい時から読んでるから
クセになってるだけ」



父親に読書を薦められて

いつも読んでた



別に読みたいわけじゃないけど

読んでると勝手に時間が過ぎていくから

ラクだった



勉強するより

マシだった



朝日奈と

自然とふたりで駅に向かってた



今日はオレの後ろじゃなくて

隣にいる



今日は先輩と会わないの?



「昨日、先輩大丈夫だった?」
「昨日、ありがとう」



言葉が重なった



「「あ、うん…」」



朝日奈が笑った



「ん?」



「一緒でおかしかった」



「うん…
阿吽の呼吸って、こーゆー時使うんだね」



とりあえず

朝日奈が元気そうでよかった



「あー…お腹空いた」
「あー…腹減った」



また同時だった



ふたりで笑った



何もないけど

こんなくだらないことで笑えて

幸せだと思った



「朝日奈、何が食べたい?」



「星野、おごってくれるの?」



「バイト代ほとんど使ってないからいいよ」



「えー、羨ましい
私なんか欲しいのいっぱいあるのにな

かわいい夏服も欲しいし…
化粧品も欲しいのある
イヤフォン壊れてるし…
新作のコンビニスイーツも食べたいし…
私も夏休み、バイトしよう

あ、ごめんね
星野、何食べたい?
星野が食べたいのおごって!」



「オレ?
オレは、帰ったらばあちゃんのご飯食べる」



「え?ばあちゃんのご飯?」



「うん、いつもオレが好きな物作ってくれる」



「へー…星野、ばあちゃん子なんだ」



「うん
ばあちゃんが1番かわいがってくれる」



「星野のばあちゃんのご飯
私も食べてみたい
じゃあ、それおごって!」



「いいよ」



「ヤッター!」



「え…
ソレって朝日奈がうちに来るってこと?」



「うん、そーだよ」