『君』の代わり。


結局

そのまま歩き続けて

電車には乗らなかった



歯医者の看板が見えてきた

空がやっと薄暗くなってきた



朝日奈は

ずっとオレの後ろをついて来た



オレのリュックのヒモに掴まって



「さっき、手、痛くなかった?
オレ、無理矢理引っ張ったから…」



「うん…痛くなかった」



「足、痛くない?
いっぱい歩いたから…」



「うん、大丈夫…
また痩せたかも…」



「まだダイエットしてんの?
無理すると、体、壊すよ」



「うん…そーだね…

ありがと…

星野…」



「オレ、何もしてないから…

朝日奈に、何もしてやれないから…」



朝日奈…

好きだよ



大好きなのに

何もできない



ありがとうって

朝日奈に言われると

嬉しいけど

虚しくなる



「星野は
いつも、私をちゃんと見ててくれる」



うん

いつも見てた



なのに…





振り返って

朝日奈を見る事も

こわくてできない



「見てないよ

ごめん…今も、ちゃんと見れない

この前、一緒に帰って
朝日奈と分かれてから
朝日奈のこと…
朝日奈のこと…見たくないと思った

学校でも見ないようにしてたし
会わないようにしてた

今日、久しぶりに見掛けたら
なんか朝日奈、ちょっと痩せてて…
心配になった」



声が震えた


泣かないように必死だった



「私のこと…嫌いになったの?」



「違う…嫌いになんかなってない」





振り返ったら



朝日奈と

面と向かったら



オレ

どぉなるかな?



自分でもわからなくて

こわかった



好きなのに

こわい



朝日奈と

同じ



「今、振り返ったら…

オレ…

たぶん
朝日奈のこと…

もっと好きになると思う

だから…
見ない

見れない」



日が落ちた



空が暗くなって

少し涼しくなった



リュックに重みを感じた



たぶん朝日奈が

オレのリュックに抱きついてる



「星野…」



「ん…?」



朝日奈の沈黙さえもこわかった



朝日奈から次の言葉が出る前に



「帰ろ…」



オレが言った



「うん…」



リュックが軽くなった



「じゃあ…」



「うん…

ねー、星野…
明日はちゃんと見てくれる?
明日からまた見てくれる?
学校で、目が合ったら、手振ってくれる?」



「うん…」



目を合わせる度胸も

手を振る勇気も

あるかわからないけど

とりあえず頷いた



「じゃあ、いいよ…
また明日ね…

バイバイ、星野…」



「うん、バイバイ…」



振り返らず

いつもの看板の前で分かれた



自分の影を踏みながら歩いた



また明日…