『君』の代わり。


電車から下りて

朝日奈が言った



「…してないよ」



「え…?」



声が小さくて

よく聞こえなかった



「してないよ、キス…」



オレが聞き返したら

朝日奈は恥ずかしそうにそう言った



「…」



聞いたのはオレなのに

なんて言えばいいか

わからなかった



質問自体デリカシーのない質問だった

しかも電車の中だった



「されそうになった…

でも、こわくて…
こわくなって…
帰って来た

先輩に、嫌われたかな?」



え…?



また聞き返しそうになった



そんなこと

オレに

言わないでほしいな…って

思った



オレ

助けてあげれないし

何もできないよ



そもそも

先輩は

朝日奈のこと

好きなの?



それは

絶対

聞けない



朝日奈は

やっぱり

先輩が好きなの?



じゃあ

なんで…?



「なんで、こわかったの?」



「なんで、かな…」



じゃあ

なんで…



「なんで、オレとは…

キス、したの?」



一瞬

またデリカシーのない質問だと

思った



でも

聞いてしまった



聞きたかった



余裕のない自分が

自分じゃないみたいだった



「なんで…かな…

星野は、絶対、こわいことしないから…」



こわいこと?



「なに、ソレ…」



よくわかんないけど

ショックだった



朝日奈の答えに

ムカついた