『君』の代わり。


昼にやっと部屋を出て

母さんが朝用意していった

目玉焼きとウインナーを食べた



物足りなくて

冷蔵庫を覗いた



「リョー?」



後ろから声がして

振り返ったら

兄の彼女だった



「なんだ、リョーのTシャツ着てるから
リョーだと思ったら弟くんだった
しばらく見ないうちに背伸びたね

帰って来てるの?
あ、夏休みだもんね」



無視して

麦茶をグラスに注いだ



「私にもちょーだい」



勝手に食器棚からグラスを出した



兄が中学の時から付き合ってる彼女

その頃からよくうちに来てた



オレがここに帰って来てる3日間も

毎日兄の部屋から彼女の声がした



「ありがと」



彼女はオレが注いだ麦茶を一気に飲んだ



口元が水滴でキラキラした



「こっちにいつまでいるの?」



「さあ…わかんない」



オレがいると邪魔?

ここオマエの家じゃねーだろ



早く部屋行けよ



「おばあちゃんち楽しいの?
どんなとこ?
何して遊ぶの?
かわいい子いる?
あ!彼女とかできた?」



質問攻めにムカついた



東京がどんな所か質問してきた朝日奈には

ムカつかなかったのに…


むしろ今思い出すと

かわいかったな…って

ふられたのに思ってしまう



兄ちゃんの彼女の

最後の質問に特に苛ついて

オレが先に自分の部屋に戻った



兄は中学の時から彼女がいた

だからオレも

中学生になったら彼女ができると思ってた



朝日奈に告白することも

オレの中では何ともないことだった



告白したら

普通に交際が始まって

普通にオレに彼女ができる



普通に朝日奈は

オレの彼女になると思ってた



やっぱり兄とは違う

オレは何をやってもダメなんだ