キキッ、ガタンッ

自転車をとめる音がしたかと思えば
舞は、ふわっと克の香りに包まれた。

「…ごめん。泣かせて。」

克が舞を抱きしめる。

(克は、誰にでも優しすぎるよ。)

舞は克の胸の中に顔を埋めた。

ドクッ、ドクッ、ドクッ

「…克の音がする。」

舞が呟いた。

「俺の焦った音がするっしょ?」

克が笑った。

「…舞もドキドキする?」

「…してるよ?」

「そっか。」

そういうと、抱きしめていた腕が少し和らぐ。


「克…もう大丈夫だよ?
ごめんね。何かわかんなくなっちゃって。」

「いーよ。ゆっくりで。
舞のペースで大丈夫だから。」

「克は…お兄ちゃんみたいだね。
私一人っ子だから、わかんないけど
お兄ちゃんがいたらこんな感じなのかな
って思った。」

(まさかの、兄弟路線?可哀想…俺。)

「まーい、顔あげて。」

「ん?」

舞が言われたとおりに顔をあげた。
ふっと、克の掌が舞の頬を包む。

「これも…お兄ちゃんみたい?」

「…。」

顔を真っ赤にしてぶんぶんと首を振る舞。

「ならよろしい。」

と克が笑った。

ドキンッ

舞の胸が高鳴る。

「帰ろ。はぁ、俺、今日頑張り過ぎた。」

そう言って、克が自転車をおして歩き出す。

(私もだよ。
…だけど、このドキドキの意味
ちゃんとわかった気がする。)

私…克が好きだ。