鈴が雨泽の教育係になって、
三ヶ月。
他のスタッフと、
比較して、彼は、
明らかに優秀だった。

物覚えも良いし、
効率よく業務をこなすのに、
長けている。

中国は受験の競争率が高いと言うから、
自ずと優秀な人材が多いのかもしれない。

「もうそんなこともできるんだね。」
声を掛けると、
彼は黙ったまま、ぺこりとお辞儀した。

月日が経っても、
相変わらず、
雨泽と鈴の距離は縮まらないままだった。
仕事の習熟度と反比例して、
彼の態度は軟化しない。

しかし、仕事自体はできるので、
社交性が無いことはほとんど、
気にならなかった。

鈴は彼との関係ができていないことを、
気にするのを、いつしか辞めた。

今日も自分のやるべきことを、
こなせばいい。

初めは周囲の目が気になり、
雨泽を気にかけていたが、
過剰な心配をするのも、
お節介なのかもしれない。

そう思うようになったのだ。

気持ちを切り替えて、
商品をスキャナーに通し、
接客していると、
クレーム客が入ってきたのがわかった。

50代前半女性。
いつも商品の入れ方が悪いだの、
サービスが悪いだの、
言いがかりをつけてくる人である。

他のスタッフも彼女には、
萎縮しており、
中には姿を見ただけで、
関わりを避けようと、
逃げてしまう者もいた。

何事もなく帰ってくれるといいが、
と考えたせいか、
彼女は雨泽のレジに並び、
やはり文句をつけたのだった。

「なんで卵を入れた袋に、
他の物を入れるのよ!」

店内に甲高い声が響く。
雨泽は訳がわからず、おろおろしており、
周囲の客も眉をひそめた。