「最近は外国人のお客さんも、
来るようになったね。」
マスターが鈴に微笑みかける。
話好きのマスターは、
お客さんが少なくなると、
時々、こうして話題を、
提供してくるのだった。

「そうですね。」
「英語メニューも用意した方が、
いいかなぁ。相原さん、
英語得意?」
期待しないでくださいよと、
やんわりと否定すると、
マスターはそうかあと、
肩を落とした。

確かに連日、外国人客が増えている気がする。この店の雰囲気が英国風だからなのか、
親近感があるのかもしれない。

日本語メニューがわからずに、
困っている外国人客がきた時に、
ふと、雨泽を思い出した。

彼は元気にしているだろうか。
必死に日本語で告白してくれた彼に、
一度も歩み寄ってあげることが、
できなかった。
 
少しくらい中国語ができれば、
研修中、
あれほどまでに心を閉ざすことが、
無かったのかもしれない。
そう思うと、少し後悔した。

そんな矢先、
マスターが初の試みとして、
外国人スタッフを入れたいと言い出した。

「外国人スタッフがいれば、
その国のお客さんがきた時に、
対応してあげられると思うし、
客層も広がると思うんだよね。」

思い立ったらすぐ行動する性分の彼は、
有言実行して、
一ヶ月も立たないうちに、
日本在住海外国籍のスタッフを何名か、
採用したのだった。