「今から到着されるお客様にご挨拶をしたり、お茶室へご案内したりします」

「お茶室?」

「はい、富田屋では到着したお客様に和菓子とお抹茶でおもてなしをしています。ウェルカムドリンクみたいなものです」

「なるほどねぇ」

細やかな気遣いはさすが老舗旅館といったところか。

「挨拶は女将がするので、私たちはそのサポートをしましょう。まずは私の真似をして動けば大丈夫ですよ」

「うん、わかった。いや、わかりました」

これからお客様をお迎えするため、私も気合いを入れ直し身を引き締めた。女将と先輩愛莉ちゃんの足を引っ張らないように頑張らなくちゃ。

「それから、これをつけてください」

「インカム?」

「はい、従業員同士の会話はこちらを使います。何かあればこれで従業員に連絡できますし、お客様の情報をすぐに全従業員に知らせることができます」

インカムもセットして準備万端となったところ、すぐに耳に声が届いてドキッとなった。

『田端様が到着されました』

その声に従業員一同、ピリッと背筋が伸びる。その声は潤くんのもので、インカムからお客様の情報がリアルタイムに伝わってきて、姿は見えずとも一緒に働いている実感がじわりと感じられて心密かに嬉しくなった。