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「初めまして。皆川愛莉と申します。今日はよろしくお願い致します」

女将の部屋に案内された私は、淡く落ち着いた桃色の着物を着た彼女に丁寧に挨拶をされてひどく戸惑った。

「こちらは今うちで女将修行をしている愛莉ちゃん。なぎさちゃんは今日は愛莉ちゃんに付いて仕事を覚えてください」

「あっ、はい、わかりました」

動揺しすぎて女将さんに指示されてから慌てて返事をするありさま。
女将修行をすると言ったものの、まさか他に女将修行をしている人がいるなんて思ってもみなかったからだ。

愛莉ちゃんは若くて可愛らしいのに背筋がピンと伸びて桃色の着物がとてもよく似合っている。ほわっとした笑顔は万人を癒しのオーラで包んでしまいそうなほど柔らかく嫌味がない。

富田屋にこんなに可愛い子が働いていたなんて知らなかった。潤くんも教えてくれなかったし。

女将修行をする私は愛莉ちゃんと同じく桃色の着物に着替える。当然自分で着物の着付けはできないので何から何までやってもらうのだが、愛莉ちゃんがテキパキと私の帯を結ってくれた。

「愛莉ちゃんすごい、着付けできるんだ。ありがとう」

「いいえ、私も半年前に覚えたばかりなんです」

「半年でこんなに完璧にできるもの?」

「もう、なぎささんは褒め上手ですね」

ふふふと照れる仕草まで可愛いとは恐れ入った。愛莉ちゃんはまだ二十歳なのにとてもしっかりしている。

私より十歳近く離れているのにここでは先輩であり先生だ。