その刹那、ゴチッと音がしたかと思うと父が深々と頭を下げテーブルに額を豪快にぶつけていた。

「おっ、お父さんっ?!」

「なぎさは自由奔放でじゃじゃ馬娘だけど、本当に可愛くて良い子なんです。娘の幸せだけが私の願いだ。どうかなぎさを幸せにしてくれないだろうか」

頭を下げたまま訴える父に私は呆気に取られていた。父は普段寡黙で自分の気持ちを大っぴらに言うことは少ない。そんな父からこんな言葉が出てくるとは思いもよらなかった。

「お父さん、頭を上げてください」

「そ、そうよ、お父さん」

私と潤くんが慌てる中、お茶を持った母がニヤニヤと含み笑いをしながら父の隣に座る。

「潤くん、なぎさは一度結婚のお話まで進んだ方がいてね、でもお相手の都合でダメになっちゃったことがあるの。だからお父さんったら、次になぎさが連れてくる男は絶対に身辺調査をするって張り切ってて。なのに連れてきたのがよく知ってる潤くんでしょう?もう、本当にびっくりよ。身辺調査も何もないわよ、ねぇお父さん」

「いや、まあ、なんだ、その……」

目を伏せてモゴモゴと口ごもる父を初めて見た。あんな事があってから、親のすねをかじりながら実家でダラダラと過ごしていた私のことを、こんなにも真剣に考えていてくれていたなんて知らなかった。