初夏の陽気もジリジリとした暑さに変わる頃、汗なんて感じさせないくらい爽やかにスーツを着こなした潤くんが大野家を訪れた。

「ご無沙汰しております。富田潤です」

一度結婚することを失敗している娘が連れてきた男はどんなやつだと構えていた両親は、潤くんの凛々しく丁寧な挨拶に言葉を失っていた。

「ちょっと、お父さんお母さん。幼なじみの潤くんだよ」

「えっ、ああ、うん、びっくり」

「いや、ほんとに」

事前に“お父さんもお母さんも知ってる人だよ”と含みを持たせた伝え方をしていたのだが、まさか相手が幼なじみの潤くんだとは思わなかったようだ。

「ええ、本当に潤くんと?何だかものすごく立派になっちゃって。あらぁ、お相手がなぎさでいいのかしら?」

「お母さんったら、お兄ちゃんと同じ事言うんだから……」

「だってねぇ。つい最近潤くんのお母さんとお会いしたけど、一言もそんなこと言ってなかったわ」

「そうなんですか。いつも母がお世話になっております」

「いえいえ、こちらこそっ、ああ、お茶も出さずにごめんなさいね」

パタパタとキッチンへ駆け込む母とは対照的に、父は静かに潤くんを見つめている。変に空気が張り詰めて急に緊張感に襲われた。

「……潤くん」

「はい」

静かに口を開いた父が潤くんに睨みを利かす。張り詰めた空気がより一層深くなり私はごくっと唾を飲み込んだ。