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潤くんと正式にお付き合いを初めてようやくデートすることになった。一緒にお出かけをすることは実に二年ぶりくらいだ。ウキウキとテンションが高くなる私は単純極まりない。どうやらずっと潤くんに会いたかったみたいだ。

私は土日休みの事務職、潤くんの旅館業はシフト制だ。故になかなか休みが合わない。今日のこの日も、調整に調整を重ねた結果なのだ。

「なぎに寂しい思いをさせてるよな」

「そんなことはないけど。私は自由気ままにやってるし」

あっけらかんと笑い飛ばす見栄っ張りな私の性格は変わらない。本当は会いたくて会いたくてたまらなかった。ずっとこうして隣にいてほしくてたまらない。

そんな気持ちを見透かしているかのように、潤くんは困ったように微笑む。

「今、富田屋の一部を改装して特別室をつくってる。完成したらなぎを招待したい」

「特別室?」

「スイートルームって言った方がわかりやすいかな?元々そういう部屋はあるんだけど、それとは別に昔従業員の宿舎として使っていた離れを改装して特別仕様のラグジュアリー空間に作り替えているんだ。オーシャンビューで客室露天風呂付きのプライベート空間をオープンさせるんだけど、一番になぎに宿泊してほしい」

「ええっ!すっごく魅力的ですっごく嬉しいお誘いだけど、一番って、さすがにそれは気が引けるよ」

「今はまだ両親が主となって経営してるけど、特別室は俺の提案なんだ。一番になぎを招待したいって両親にも伝えてあるから大丈夫」

「それって実質ご両親に挨拶することになるんじゃ……」

「紹介させてよ。あとなぎのご両親にも挨拶に行かせて」

「ええっ?ま、まあいいけど」

急な申し出に心臓がドクンドクンと跳ねる。だって私たちは幼なじみとはいえまだ付き合い始めたばかり。それなのにもうお互いの両親に挨拶しようだなんて、まるで結婚するみたいだ。