「何をブツブツ言っているの?もー、だらしない子ねぇ」

「いいじゃん、家なんだし。寛いでるのよ」

「そういえば潤くん、富田屋で働き始めたんですって」

まさか母の口から“潤くん”の名前が出るとは思わず、動揺したのか携帯を顔面に落としてしまった。

「ったぁ~!」

「……何してるの?バカねぇ」

「むう。……潤くんが富田屋で働き始めたのは知ってるよ。連絡あったし。お母さんなんで知ってるの?」

「昨日潤くんのお母さんとスーパーでバッタリ出会ったのよ」

「ふーん」

「なんでも、お見合い相手を探しているらしいわよ」

「はあっ?」

母の口から出てきた言葉は衝撃的で、反射的に私を起き上がらせるのに十分な威力を発揮した。

「富田屋の御曹司だものね、家柄の良いお嬢さんでも探しているのかしらねぇ」

「マジで……?」

潤くんがお見合い?
そんなの聞いてない。

だから地元に帰ってきても”会おう”と言われないはずだ。そういうことだったのだ。潤くんはもう私に興味はないのだ。

ふと結婚破棄されたときのことを思い出して胸が古傷のようにズキッと痛んだ。人は簡単に心変わりすることを私は知っていたはずなのに何を期待していたのだろう。