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兄は結婚しようと姫乃さんにプロポーズした直後、予想外の海外赴任になった。仕事を辞めてついてきてほしい兄と仕事を辞めたくなくて日本に残ることを決意した姫乃さん。二人が選んだ道は遠距離恋愛だった。二年間の遠距離恋愛を経ても気持ちは変わることなく、彼らは晴れて夫婦になったのだ。

遠く離れた場所に暮らしていながら相手のことを想い続けるなんて、私にそんな忍耐力はない。一見サバサバしているように見えて、本当はいつも誰かと繋がっていたいと思っている。

SNSだってそう。コメントをもらったりコメントを返したり。自分の気持ちに共感してもらえたなら更に嬉しくなる。だから学生の頃からずっと続けているのだ。

「でもなぁ……」

ロンドンで撮った写真のデータを整理しながら、私は潤くんのことを思い出していた。

「くそっ、かっこよくなりやがって」

まだ私は自分の気持ちを整理しきれていない。ザ・シャードで交わしたキスの余韻は帰国後も時折思い出されて私の胸をしめつける。

潤くんがマメに連絡をくれることをいいことに、私はそれに胡座をかいていたし、悪い気はしなかった。ただ、私の曖昧な態度がよくないことは重々承知だ。

「だって私アラサーに突入してるよ。潤くんまだ学生じゃん。絶対心変わりするって」

はしたなくベッドに転がりながら、私は一人ごちた。