心ひそかに落ち込みそうになっていると、絡まっている手がしゅるしゅるとほどけてぎゅっと握り直される。

「なぎのおかげだよ。なぎがいないと俺はダメ人間なんだ。なぎがいてくれるから頑張れる。なぎは俺の原動力なんだ」

「なにそれ。私はそんないいものじゃないってば」

笑い飛ばそうとしたのに、潤くんの視線は私を捕らえて離さない。その真剣な想いは決してはぐらかしてはいけないのだと本能的に感じた。

「……でも、ありがと」

小さくお礼を言うと潤くんは満足そうに笑った。その笑顔は大人びたかっこよさと昔から知っているあどけない可愛さが混じっていて、私の心をくすぐる。

「なぎ」

「うん?」

「キスしていい?」

「……うん」

繋いだ手が少しだけ引っ張られる。
近づく距離に自然と目を閉じた。

軽く触れるだけのキスなのに、ぶわっと体の奥から込み上げるものがある。その優しい柔らかさに心ごと持っていかれそうになった。

きっとここは海外だから。
ドレスコードをしていつもと違うから。
だから気持ちが大きくなっているに違いない。

名残惜しく唇が離れると、お互いどちらからともなく照れたような愛想笑いをする。今までの恋愛でキスの後ってどんな顔をしていたのだろう。こんなにぎこちなかっただろうか。もうそれすらも思い出せないくらいに潤くんのことばかり考えてしまう。

「卒業したら迎えに行くから。それまで待ってて」

潤くんの甘い言葉に軽く微笑むことはできたけど、はっきりと返事をすることはできなかった。