連休が終わって通常通りの日常が戻ってきた。
あれからずっと潤くんが頭の片隅に住みついていて、振り払っても出て行ってくれない。これを忘れられないとでもいうのだろうか。そのせいで、あんなに好きだった飲み会も合コンもまったく乗り気じゃなくなってしまった。

──夏休みそっちに帰るから会おう。約束だ。

一方的な約束なのに、その言葉がずっと私を縛りつける。

「潤くんは夏休みかもしれないけど私は仕事だっつーの」

「もー、だらしないわねぇ。京都のお土産、早くおばあちゃんちに持っていきなさい。賞味期限がきれるでしょう?」

ソファーに寝転がりながらブツブツと悪態をついていると母親が掃除機をかけながら私を邪魔者扱いする。うーんと伸びをしてから、しかたなく重い腰を上げた。

実家暮らしの私は結婚と同時に家を出る予定だった。結婚が白紙になった今、家を出ていく選択肢はない。実家でゴロゴロ甘えるだけ甘えて親のすねをかじっている。

祖母の家もすぐ近所にあり、京都のお土産を持っていこう持っていこうと思って早数日。リビングの片隅に紙袋に入ったままのお土産を見かねた母がこうやって声をかけてきたのである。

紙袋片手に家を出ようと玄関の扉に手をかけたところで、「ついでに卵買ってきてー」と背中越しにおつかいを頼まれてしまった。どうせそっちが目的だったに違いない。

「はいはーい」

気のない返事をして私は家を出た。